2020年序盤、最も大きな話題の一つにレーシングポイント(現アストンマーチン)のメルセデスコピー疑惑がありましたね
シーズン開幕前に発表したレーシングポイントのニューマシンRP20が、メルセデスの前年度(2019年度)マシンW10にめちゃくちゃ似ているのです…
レーシングポイントのテクニカルディレクターであるアンディ・グリーンもW10をコピーしたことを完全に否定しなかったため、その合法性が疑われました。
調査の結果、シーズン途中でレギュレーション違反と判断され、チャンピオンシップの15ポイント剥奪・約5000万円の罰金のペナルティを受けることになります。

しかし、レギュレーションが他車のコピーに関して明確に禁止していたわけではなく、レーシングポイントはそのあたりの抜け穴を突いたつもりだったのでしょう。
そして、2021年度からはコピーの全面禁止のためレギュレーションに追記がなされました。
本記事では、何が禁止されるのか・どうやって禁止されるのかについて説明します。
2021年施行 ー コピーを禁止するレギュレーションとは?
追加された規制は、2021年版テクニカルレギュレーションの23.3.3に記載があります。
以下に追記部分のレギュレーションを引用します。
出典:2021 FORMULA 1 TECHNICAL REGULATIONS published on 16 December 2020
細かく内容を見ていきましょう!
ヘッドライン部分・概要
「ライバルチームのリステッドパーツからデザインやコンセプトの影響を受けることは許されるが、公的なイベントやテストで得られる情報のみ使用可能である。つまり、ライバルのリステッドパーツを”リバースエンジニアリング”で設計することは許されない。」
「リステッドパーツ」とは各チームが自分たちでデザインしないといけないパーツのことです。
例えば、ハースはフェラーリと多くのパーツを共有していますが、ブレーキダクト等一部のパーツは独自に開発しなければいけません。
※レギュレーション原文では「Listed Team Components」略して「LTC」と記載されていますが、リステッドパーツと言うのが一般的な気がします。
要は、他車のマシンを見てデザインのコンセプトを真似ることはOKなわけです。
例えば、次のようなことは許されます。
▼合法な例
「おぉ、あのマシンのフロントウィングは象さんみたいだけど速そう!俺らもあーいうフロントウィングにしよーっと」
しかし、コンピューターを使ったリバースエンジニアリングや怪しいルートから得た情報は使えないのです。
以下に示す例はアウトということです。
▼レギュレーション違反な例
「速そうなデザインだから、写真をめっちゃ撮ってコンピュータで3Dデータを作っちゃおう」
「あのチームのコンピューターをハッキングして3Dデータを盗もうかな」
ハッキングやスパイを使ってコピーするのは当たり前にダメですし、以前から禁止されていました。
今回注目するのはどこから”リバースエンジニアリング”とみなされるのか。
レギュレーションではa, b, c, dの4項目で具体的に示しています。
- 写真から3Dモデルを復元することを禁止(a)
- 写真測量法・3Dカメラの使用を禁止(b)
- サーフェススキャニングの禁止(c)
- 点群や線群の転写技術の禁止(d)
3Dスキャニング技術
禁止されている技術を分かりやすく解説していきましょう。
F1解説YoutuberであるChain Bearさんからクリップを使用する許可を頂いたのでいくらか引用させていただきます。
レーザースキャニング
出典:F1 Bans Copycats – the 3D Scanning techniques made illegal
レーザースキャニングは測定したい物体にレーザーを当て、レーザーのゆがみをカメラで計測することで物体の形を3次元的に認識する技術です。
Structured Light (光切断法)
出典:F1 Bans Copycats – the 3D Scanning techniques made illegal
Structured Lightは日本語では一般的に光切断法と呼ばれます。
光切断法では、特定のパターンを持ったレーザー光を物体に転写、その変形をカメラで撮影したものをソフトウェアで処理することで物体の形を特定します。
レーザーリフレクション
出典:F1 Bans Copycats – the 3D Scanning techniques made illegal
レーザーリフレクションは文字通り、光の反射の原理を用いた測定法です。
レーザー光が物体に当たって反射する様子をカメラで測定、各位置情報を照らし合わせることで物体の3次元的形状を調べます。
写真測量法(ステレオグラメトリー)
出典:F1 Bans Copycats – the 3D Scanning techniques made illegal
人間の目は二つの眼球がそれぞれ微妙に違う角度で景色を認識し、その二つの画像を脳が処理することで奥行きを感じ取ることが出来ます。
写真測量法も人間の目と原理的には同じで、物体の写真をたくさんの角度から撮ることで3次元空間における形状を復元する手法です。
コンタクトスキャニング(接触走査)
出典:F1 Bans Copycats – the 3D Scanning techniques made illegal
コンタクトスキャニングは最も直感的な方法の一つですね。
単純に機械が物体に触れることでセンサーが情報を処理、最終的には3Dモデルを作成することできます。
上で説明した方法を組み合わせて使うことで、かなりの精度で物体を3Dモデルに起こすことが出来ます。
どうやってコピーを取り締まるのか?
かなりの精度で3Dモデルを再現できると書きましたが、これが出来るのであればFIAが上記方法のいずれかを使うことでコピーしたかどうかを判定できます。
例えば、アストンマーチンのマシンがメルセデスの物に酷似しているなら、FIAのスタッフが3Dスキャナーをもってマシンを調査すればデータで一目瞭然でしょう。
そもそも、チームはFIAにマシンのCADモデルを提供することが義務付けられていますし、その段階である程度は判断できそうですが。
まとめ
個人的には、今年のレーシングポイントのコピー設計にはある意味感動しました。
というのも、よく考えてみるとめちゃくちゃ理にかなってますよね。
中堅チームでしかも予算が少ないレーシングポイントのようなチームはチャンピオンを狙うわけじゃなくて、中団グループのトップにいればいいわけですから。
元から似た設計のメルセデスをコピれば本家には勝てなくても、それなりの性能は確保されるわけです。
まぁ外側だけコピーしたところで同じ性能は出せないんですけどね。
実際レーシングポイントは”ピンクメルセデス”の設計に多大なる労力をかけたと明かしています。
全チームがこれをやってしまうと大変ですから、レギュレーションで規制されたのはいいことだと思います。
今年、各チームどんなマシンを作ってくるのでしょうか。(見た目はあまり変わらないかな(笑))